コンピュータ・ミュージック・マガジン誌レヴュー(97年8月号)

実際の作曲家の思考をプログラミングしたオート・コンポーズ機能
 Microworks社が発表したCAMPSV3は「音楽知能を搭載した次世代のシーケンサー」と謳われているように従来のシーケンス・ソフトなどと比べて非常にユニークな機能やコンセプトをもっています。いわゆるプログラミング・ツールとしてのシーケンス機能だけをみてもかなり高い水準の性能を備えているのですが、CAMPSV3の最も特徴的な部分はさらにその他の部分にあります。
 例えばメロディーやベースラインなどに対して適切なコード進行を割り当てるハーモナイズ機能、コードに沿ったメロディーラインを作曲させるオート・コンポーズ機能、MIDI入力された和音のコード名を分析するコード判定機能などがそうです。これらは従来のパターンを元にした伴奏作成ソフトやアルゴリズムを用いたプログラムとは大きく異なるもので、大げさにいえば実際の作曲家/音楽家の思考をプログラミングしたものということができます。

作ったメロディに対してコード進行を何万通りも提案してくれる
 まず自分の創ったメロディーにコードを付けるという作業から見ていくことにしましょう。メロディーの入力はリアルタイムまたはステップ入力によって通常のシーケンサー同様に行います。あるいはSMFを読み込んで使用しても構いません。メロディー(またはアルペジオやベースラインなど)を入力したら次にコードメニューからハーモナイズというコマンドを選択します。するとCAMPSがまず適切と思われる調を表示するので、その中から調を指定すると考えうるコード進行を次々と表示します。そしてこれもCAMPSの特徴の一つなのですが、ここで表示されるコード進行というものは単純なメロディーなどであった場合莫大な数におよび(何百、何千通り)、ユーザーはその中から実際に響きを試聴しながら選択していくことになります。
 つまりCAMPSはユーザーが創ったメロディーに対し「コード進行はこれが最適である」という一つの答えを出すのではなく、「こういうコード進行はどうか」という提案をしてくるということになります。そういう意味ではむしろ初心者よりもプロフェッショナル向けに創られているといってもいいかも知れません。とはいっても、自分の創ったメロディーにテンションなどを含んだかっこいいコードが瞬時につけられる瞬間は初心者にとってはまさに夢を叶えるといってもいいような感動があります。

メロディのフィールを保ちながら作曲を行う
 次にCAMPSにメロディーを創らせてみましょう。といってもCAMPSは無の状態からメロディーを生成させることはできませんので、まず何らかの素材を入力する必要があります。リアルタイムやステップ入力でメロディーを入力すれば、CAMPSはそのメロディーを元に作曲を行います。コード進行が既に決まっているならそのままメロディーのトラックを選択して作曲コマンドを実行すればそのコードに合ったメロディーを何度でも作曲します。この場合元のメロディーのリズムはそのままで、音程のみが様々に変化しているということになるのですが、CAMPS Proの方ではこのリズム自体も再作曲させることができるようになっています。
 そしてCAMPSの重要な特徴の一つとして、この作曲を行う際に元のメロディーのフィールを保ちながら作曲を行うということが挙げられます。つまり重要な音(ルート音など)について独自の判断を下し、「こうしたいであろう」と思われる部分をCAMPSが考え、作曲を行います。つまりこのへんが人間の作曲家を意識している部分だと思うのですが、単純なアルゴリズムでない、CAMPSの人工知能ともいうべき頭脳が作曲を行うのです。ただしこれはコンポジション・セットアップという作曲のための設定を行うパラメーターがあり、この部分の設定により様々な作曲パターンが行える様になっています。そしてこの設定をスタイル・ファイルとして保存することで自分自身のスタイルを作成し、CAMPSを自分用に育てていくことができるのです。

プロの作曲家にとっても有益な耳で確認できるボイシング機能
 これはCAMPS Proだけの機能なのですが、CAMPSで最も注目に値する機能の一つとしてヴォイシング機能というのがあります。例えばブラスセクションのハーモニーなどを作りたい場合に、トップノートとなる音を選択しヴォイシングのコマンドを実行することで瞬時にコード進行に沿ったヴォイシングを行うというものです。  通常メロディーというものは単音の場合が多いですが、曲の一部を強調する場合などに和音を伴ったラインを構成することがあり、これを一般的にヴォイシングというのですがヴォイシングは特にこの和音を構成する音の配列についてのテクニックのことをいいます。
 例えば同じC Major(ド、ミ、ソ)という和音でもド、ミ、ソの音をどういう順番で構成するかによって音の響き方は全く違ってきます。CAMPSではClosed、Drop2、Spreadといったプロの手法をあらかじめ装備することで、プロにとってもかなり高度なテクニックであるこのヴォイシングを実際に耳で確認しながら行うことができます。そしてこの音で確認しながら作業ができるという点は、高度なアレンジを行っているプロの作曲家にとっても大変有益な機能です。初心者にはプロのテクニックをもたらす画期的な道具として、プロには作曲のプロセスを助ける便利な道具として、CAMPSはそれぞれのレベルにおいて作曲活動をサポートします。

機能を試すたびに発見と感動がある
 CAMPSの機能を全部解説するのはとても大変なのですが、その他の主だった部分について挙げておきましょう。
 先ずメロディーの作曲を行う際の機能としてメロディードローという機能があります。これは「こういう感じ」「ここで盛り上がる」といったイメージを画面上にラインで描き作曲させることで極力そのラインに沿ったメロディーラインを作成するというもので、開発元ではこれを「メロディーのデザイン」といっています。
 そしてコードの判定機能ですが、これはMIDIキーボードで和音を弾くとそのコードの該当名が表示されるというもので、これによりコードネームがわからない人でも自分の希望するコードを指定することができるとともに、学習のための機能としても有用です。
 またCAMPSはSMFの読み書きができるので、市販のMIDIデータ素材集などを用いてCAMPSで再作曲させればキーボードの演奏や打ち込みが苦手でもかなりオリジナリティを反映させた曲を作成することができます。
 普通のシーケンサーとして見た場合にも通常必要な機能はほとんど備わっているので特に不満はないかと思いますが、CAMPSV3(Proではない方)ではいわゆるミキサー画面がなかったり、エクスクルーシヴ・データの表示ができなかったり(これは両バージョン)するので、シーケンサーとしての基本性能について気になることがある方は購入前に確認しておいた方がいいでしょう。
 何はともあれこのCAMPSV3は今までのDTMソフトの枠を大きく破った革命的なソフトであるといえます。一つ一つの機能を試してみる毎に発見と感動の連続です(良い悪いということではなく)。CAMPSが作曲をするのではなく、CAMPSがユーザーの音楽性を引きだし、拡げていくのです。このソフトの内容がどのように評価されるにしろ、CAMPSV3の登場により今後のコンピュータ・ミュージックの方向性が大きく広がったことは間違いないでしょう。

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