株式会社マイクロワークス 長谷川氏インタビュー
(コンピュータ・ミュージック・マガジン誌97年8月号より)

CAMPSが最初に創られた、あるいは考え出された時のことを教えて下さい。

長谷川(以下H):
 CAMPS の原案は、IBM-PC が会社や学校など身近な場所で見られる様になり始めた 1980 年頃発案されました。場所は Boston です。当時 Berklee College of Music やNew England Conservatory で音楽を研究していた有志が中心となり、発足しました。「このパワフルな力を、音楽のために知的に使えないものだろうか?」... これがCAMPS プロジェクトの始まりでした。
 音楽を愛する者であれば誰でも一度や二度、「いい曲を創ってみたい!」と夢見るものだと思います。だから昔から「いい曲って何なんだろう?」って、みんなで考えてきた訳です。時代も経過すれば発見も貯まってきて、現代では、「う〜ん、なる程ね」と納得できる発見が非常に沢山あります。だからと言ってこれらをあまり意識しすぎると自由な作曲が阻害されかねません。しかし、もしこの様な「発見」をソフトウェアに埋め込み、これらを踏まえた作曲案が自動的に次々と提示されるとしたら、ど うでしょう... 非常に自由な作曲環境が実現することになるのではないでしょうか。作曲案を受け入れるか否かは人間側の自由です。つまりコンピュータに作曲をさせるのではなく、コンピュータにこう言った「ドロ臭い」部分を受け持たせて、作曲はあくまでユーザである人間が行うのが、CAMPS のコンセプトです。

どのようにこのソフトウェアのロジックが創られていったのか、よかったら教えて下さい。

H:
 結論から先に言えば、至ってシンプルです。人間が作曲する際の過程を想像して頂ければ分かるかと思うのですが、メロディー案を試行錯誤する時、幾つかの点について留意する必要があるはずです。コード進行、前後のメロディー、他のトラック、などです。これらの要素以外に、CAMPS の場合、元となるメロディーが与えられるとこれを分析して、メロディーの特徴を加味します。コード進行の生成については、前後のコードは勿論、使用するコードの難易度やメロディーとの調和も、ユーザーに指定されていれば考慮します。どんなにいいメロディーであってもコード進行がお粗末だと、つらいものがあります。この意味で CAMPS は、「つながりのいいコード進行の生成」にかなり傾注しています。
 従来「自動作曲」の試みは米国を中心に数多く行われてきましたが、いずれも「自動作曲」と分かる結果に終わってきたかと思います。その理由は明白で、「ゆらぎ」とか「統計」に依存しているからです。一方、最近の「アレンジ・ソフト」では、「聞ける」パターンを幾つも内蔵し「誰でもすぐに編曲」を特徴としています。これはクリップアートを組み合わせてグラフィックソフトでデザインする方法に通じる物があり、類似曲の量産につながるかと思います。これら2例に見られる限界を回避し、本 来の作曲支援を実現する為に我々が出した答えは、「原点に帰れ」でした。つまり、作曲家のシミュレーションです。音楽は人間が聞くものですから、人間が作曲する過程を踏むべきだと思います。

CAMPSの特徴の一つとして、提案される膨大なアイディアの中から、最終的にはユーザーが選択するという自由度の高さがあると思うのですが、これは逆にいえば初心者のようなユーザーには何を選んでいいのかわからないといった状況を生み出すことにもなりえると思うのですが、この辺りについてはどのようにお考えでしょうか。

H:
 CAMPS の随所にある「何を選ぶか」の部分が、「ユーザの個性」を移入する場面でもあります。この意味で、ユーザにとって最も楽しめる部分ではないでしょうか?音楽は専門外であり楽器も弾けない、と言った方でも、好きなメロディー嫌いなメロディーは、意外とはっきり区別しているのではないでしょうか?音楽は良い悪いではなく、好き嫌いだと思います。ですから初心者の方こそ自信を持って、CAMPS が提案するアイディアの中から「好きな」ものを選んで頂きたく思います。
 CAMPS で当たり障りのない作曲をするコツとしては、作曲設定において作曲レンジを狭くしてコードとの調和度を高く設定しておきます。またハーモニー設定は Diatonic を使用し、曲の終わりは C とか Cmaj7 (ハ長調の場合) に設定しておけば無難でしょう。

何か具体的に他のソフトウェアから影響を受けたり参考にしたことはありますか。またシーケンス機能についても他のメジャーなシーケンスソフトなどを参考にしていますか。

H:
 作曲支援、アレンジ作成のソフトウェアについては、先程も触れました通り、特に参考にしたソフトウェアはありません。シーケンス機能については、いずれのシーケンスソフトも大同小異だと思います。MIDI 規格に拘束される以上、ピアノロール、ステップライト、コントロールチェンジ情報のドローイング、オートミキシングなど、行き着くところは同じだと思います。とは言え、独立したシーケンサー・エンジンとかマルチ・ドキュメント環境など、CAMPS 独自のユーザー・インタフェースもありますが...

CAMPSはどのような場所、どのような人達に使われているのでしょう。そして新しいCAMPSV3はどういった人達に使われていくと思いますか。

H:
 現在 CAMPS をご使用頂いている分野としては、DTM をしている方、プロ・ミュージシャン、音楽制作会社、映像制作会社、マルチ・メディアタイトル制作会社、放送番組制作会社、学校、などです。米国では、AFI(American Film Institute)を始めとする、各地の音楽大学で使用されています。ミュージシャンでは、トッド・ラングレン、トーマス・ドルビー、アル・クーパー、ハービー・ハンコック、トム・バーニーなどに使用していただいています。今後の展開として、CAMPS のユーザは3つに分類さ れるかと思います。1つは作曲支援を必要とする DTM 分野、1つは教育分野、1つは徹底的に凝った作曲を必要とするプロ・ミュージシャンです。

例えば市販のMIDIデータ集などからデータを取り入れてCAMPSで再作曲させて曲を完成したような場合、この曲の作曲者は一体誰になるのでしょう。

H:
 結論から言えば、完成させた曲の仕上がり次第かと思います。原曲が何であれ、CAMPS を使用して多大な時間的投資を施した結果完成した曲は、ユーザの作品となるでしょう。なぜなら先程も触れました様に、そこには「ユーザの個性」が移入されているからです。一方、原曲に酷似した曲は、問題となるかも知れません。この件は、マルチ・メディアタイトルを制作する場合の、素材使用に関する二次著作権の問題に似た部分があるかと思います。

CAMPSは今後どのように進化していくのでしょう。気が早いかもしれませんが、CAMPSの次期バージョンについて何か考えていることがあれば教えていただけませんか。

H:
 色々なアイディアが追加され音楽そのものが変化成長している以上、これを扱う CAMPS も進化する必要があります。丁度人間の作曲家が成長する様に、機能強化してゆければと考えています。  機能面では、譜面表示機能のサポート、ギター・ヴォイシング機能、外部 MIDI ドライバーを不要とする内蔵 MIDI ドライバー機能、パッチ・ファイルの追加、SMPTEのサポート、などが予定されています。もちろん CAMPS 独自の作曲支援に関係した新規機能も、追加搭載されます。ドラム・トラックの自動生成機能などが、目玉となるでしょう。

CAMPSのWindows版の発売予定はあるのでしょうか。また、その他に全く別の製品を開発するような予定はありますか。

H:
 ありがたいことに、CAMPS Windows の要望は大変多いです。実は現在の CAMPS v3 (Mac版) 開発と並行して、CAMPS Windows の開発が昨年より進められています。日本語版のリリースは、来年を予定しています。MacOS と Windows の環境や文化が異なるため、CAMPS Windows のインターフェースは Mac 版と少々違った姿になるでしょう。全く別の製品の予定としては、楽器別のチューター・ソフトがあります。これは課題曲の修得に終始しがちな現在の楽器練習の慣習を打破し、「自由な感情表現」が出来る様な練習を実現するソフトウェアです。

それは楽しみですね...。

CAMPSのページへ